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複雑化するNISAとその活用

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 みなさんはNISAをご存じでしょうか。投資をしている人なら当然知ってますよね。では、そのNISAの仕組みが2024年から”また”変わることをしっているでしょうか。マイボスコム(株)の昨年の4月の調査によると、NISAの認知率は8割、制度変更の認知率はわずか8%とのことです

NISAの仕組み

 簡単に言うと株や投資信託などに投資して利益が出ても税金がかからない制度です。通常は15%の所得税、5%の住民税、さらに2037年までは所得税の2.1%(=利益の0.315%)の税金がかかります。1000万の利益が出たら200万以上の税金がかかるということになります。200万円がゼロになったら大きいですよね。とはいっても投資額が年間120万まで最大5年間などの条件があります。また、損が出た場合に損失を繰り越して翌年以降の利益を減らすことができません(通常の株式投資ではできます)。現状のNISAには、一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAと呼ばれる3つの仕組みがあります。先の120万の例は一般NISAです。どの仕組みを利用するにしても特定のひとつの証券会社に対して利用の届け出を行う必要があります。なお19歳まではジュニアNISAのみ、20歳以上は一般NISAかつみたてNISAのどちらかを選択するというのが現在の制度(2023年まで)です。

 NISAのメリットは、株を譲渡(売却)したことで得た利益にも配当等にも税金がかからないことにあります。一般NISAはアクティブに個別銘柄をタイミングを見て選んで購入するようなタイプの人向けの仕組みで、つみたてNISAは年間40万円までと金額が下がりますが定期的な”投資信託の自動購入”で20年間の非課税期間となりコツコツと(貯金ではない形で)積み立てて資産運用したい人向けの仕組みです。ジュニアNISAは一般NISAの子供版で上限額が80万円となっています。2024年からはジュニアNISAは廃止、つみたてNISAはそのまま存続(期間が5年延長)、一般NISAの仕組みは5年間の期間延長に合わせ大きく改定され、新NISAという呼び名とともに”非常にわかりにくく”なります
 新NISAについては、東証マネ部さんの説明がわかりやすいですが、簡単に言うと、つみたて(上限20万円)と個別投資(上限102万円)の2階建てで原則積み立て利用をしないと個別投資ができないという仕組みです(投資経験者は届け出ることでつみたて部分を使用しないことが可能)。

どう活用するか

 NISAの説明は探せばいくらでも見つかるのでより詳しく調べたい場合(期限が切れたらどうなるかなど)は探してみてください。ここではどう活用するべきかについて考えてみましょう。税金はかからないが損失は繰り越せないと良い部分と悪い部分があって絶対に活用すべきとは言えないのが実情ではありますが(絶対に利益が出る・出せるのであれば別です)長期的に資産価値はあがるという前提をもつならば利用する価値は大いにあります。以下ではそれぞれの仕組みでどのような活用をすべきかを記載します。

つみたてNISA

 つみたてNISA制度の基本ターゲットは初心者で、投資対象は投資信託で年間40万円と額が小さいです。投資を長くやっている人ならわかるのですが、投資信託と言うのは”一般的には”オススメしにくい投資商品です。なぜかというと、保有しているだけで信託報酬という費用で利益があってもなくても資本を削られたり、売買手数料でさらに投下資本も削られるためです。つみたてNISAでは売買手数料が無料、信託報酬が低めとなっているためかなり有利に投資出来ます。つみたてNISAは経済の成長を信じて長期的な目線で投資すべき制度のため騰落率の大きい特定のものに偏ったものよりも安定成長を目指せるものが向いていると言えます。もっとも簡単には全世界株式等に分散投資しているのと同じ効果が得られるようなものを選ぶべきでしょう(定番は eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) )。基本的に初心者向きではありますが投資中上級者でも、自己の投資の一環として投資信託に積みたて分散投資を継続的に行いたい場合には利用する価値があります。

 注意点としては、長期的に成長するといっても例えばリーマンショック級の大暴落が投資後20年目に来た場合は元本を棄損する可能性は高いです。しかしながら1年でまとめて投資するのではなくて毎年定額で積み立てている場合は翌年以降の投資分については次第に回復する可能性がありますし長期的な運用という観点で動じることのない覚悟は持つ必要があります。例えば40万円を20年間積み立てている場合は、まったく増減がなくとも800万円が積みあがっており、一時的に50%程度の下落があれば400万円の評価損となるということです。実際eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)の基準価額は 2020年のコロナショックで2月21日の12241円から3月24日8102円まで1ヵ月程度の間に33.8%下落しています。40万円の投資をした直後なら13万ちょっとの損失で済みますが800万なら260万の下落を受けたということになります。なおその後、コロナショックから立ち直り2021年4月7日現在は14606円となっているので、その後つみたてしていなくても2月21日基準で19%以上、3月24日基準では80%以上の増加となっていますが必ずしもこのような回復をするという訳ではありませんので注意してください。このように世界分散により騰落が比較的小さくなっているものでも局所的にはかなりの変動となることがわかります。また、世界の経済動向次第で必ずしも右肩上がりになるとは限らないのでそのあたりも理解することは必要です。 

一般NISA

 2023年までとなりますが現行の一般NISAでは期間が5年とつみたてNISAと比べると短いため中期的に成長が見込める個別銘柄を購入したり、短期的に暴落して戻りが期待できる銘柄(や投資信託)を購入するのに向いていると言えます。また、つみたてNISAでは投資ができない高配当銘柄を買うというのもひとつの手です。高配当銘柄は配当落ちでの値動きが大きかったり、減配があると暴落はほぼ確実となるため業績面などの調査は必須です。一般NISAは投資銘柄の選定やタイミングについて自分で能動的に動ける人向けの制度のため投資経験者で平均的には投資収益をあげることができると自信のある方向けのものになります。投資(短期的なトレードではない)はある程度勉強し経験すれば誰でも利益を上げやすい上、投資上限額もこちらのほうが大きいため経験者はこちらを使うことが多いでしょう。判断力や行動力が身につくまではこちらの利用はあまりお勧めできません。

ジュニアNISA

 ジュニアNISAは19歳以下の人向けの制度で少し特殊です。実際には親が資金を出して子供名義で運用するということが多いと思われますが、0歳から口座を開けるため相続税対策に利用している方がいることが考えられます。投資教育も叫ばれる中、教科書だけの学習よりも実際の運用により把握・理解する効果は高いと言えます。また2023年に制度終了してしまうため新規口座開設はできなくなるのですが投資資金は20歳になるまで継続管理勘定を利用すれば非課税でロールオーバーできるというところがポイントです。今からはじめても80万円×3年で最大で元本240万円までの投資に対して20歳にまるまで非課税なります。ただし、NISAは購入した後組み換えができない(売買を行うと投資枠が減ってしまう)ためロールオーバー後にリバランス等はできません。子供が小さく長期的な成長にあわせて保持し続けることを考えるならつみたてNISAと同様に世界分散など自動的にリバランスされるような長期的商品を購入するのも一つの選択肢になります。

新NISA

 一般NISAを使っていた方は、2024年から新NISAを利用するか、つみたてNISAを利用するか考える必要があります。新NISAは(今の所)2028年までの制度とされていますが基本は一般NISAを使用していた方は新NISA一択で良いでしょう(※投資に自信があり利益を出せることが前提で、難しい場合は額は減ってもつみたてNISAにするべきでしょう)。一方ジュニアNISAの方は親が運用していたという新NISAはつみたて部分でも非課税期間5年間というのがネックに見えますが終了後ロールオーバーして(2029年から)積み立てNISAで40万円までの非課税投資枠を利用する方法をとることができます。損失が出ている場合損益通算することはできませんが、その後の利益部分も非課税になるので20年延長できたと考えることができます。個別投資部分は102万円になり18万円減額されますが能動的に投資できる枠としては許容範囲といえるでしょう(そもそも最初の頃のNISAは投資枠100万円でした)。
 投資に自信がある方の新NISAへの移行は当然の選択になりますが、つみたて部分については長期積立にメリットがあると考える場合のみ20万円を活用し2029年からロールオーバーさせるというのが典型的な活用方法と考えます。ただし、次の制度改正が出てくる可能性については留意が必要です。何度も改定や延長が続いているからです。例えば、新NISAがさらに延長となった場合、つみたて部分のロールオーバーができない(もしくはロールオーバーを優先するために新NISA部分をやめてつみたてNISAに切り替える)ことが想定されます。長期的な資産形成を考えているはずなので、投資時点で想定される行動を不利にする改正は行われないと思いますし、現時点でベストな方法を考えるのが良い選択であると思います。

まとめ

・2024年からNISA制度がかわるため現状の一般NISAを使用している人はつみたてNISAか新NISAかを選ぶ必要がある。
・一般NISAを利用している人の多くは2024年から新NISAを利用するべき。
・つみたてNISAを利用すべきは投資初心者や上級者でつみたてに価値があると考える人、投資商品としては世界分散など比較的安定して成長すると思われるもの。
・一般NISAは投資商品やタイミングを自分で選びアクティブに投資し利益を出せる人向き。5年程度の中期的な成長を期待できる株式や短期的な暴落に対してのリターン狙いなどの活用方法が考えられる
・ジュニアNISAはロールオーバーで20歳になるまで非課税運用できるためつみたてNISA同様の投資に利用することも考えられる。相続税対策や投資学習などの視点もある。
・新NISAでつみたて部分を利用する場合制度終了の年からつみたてNISAに移行してロールオーバーできる。

-株式, 税金

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